ウィンターブーツのパイオニア的存在であり、今やスタイリッシュなサンダルやスニーカーでも注目を集め、あらゆるシーンで活躍するフットウェアを提供し続けるブランド・SOREL(ソレル)。そんなソレルに「一目惚れした」と太鼓判を押すのが、大阪府にあるセレクトショップ・QATARI(カタリ)。大人の着こなしにマッチするラインナップや、“商品愛”が溢れるECサイトで人気を集めています。そして、カタリは今年でオープン15周年。それを記念して今回は、ソレルの商品担当・蒲原慶子さんと、カタリ代表取締役・中口雅史さんによる対談を開催。お互いの魅力や、フットウェア業界の“これまで”と“これから”についてなど、幅広いテーマで話していただきました。
中口:2年前ですね。その前に一度オンライン上で商品を見せてもらって。もともと僕らの方からソレルを取り扱いたいという話をしていたんですよ。
蒲原:ソレルのことはどこで見つけていただいたんですか?
中口:WEBサイトでした。ひと目見てすぐ「うちでやりたいな」と思って。
蒲原:ありがとうございます。
中口:うちでの取り扱いが決定した後に、蒲原さんが以前からカタリのことを懇意にしてくれていたと聞いたんです。だから、その後にお会いできた時は話が弾みましたね。
中口:僕、もともとは営業マンだったんです。その会社の上司がことあるごとに靴をくれて。それを一足一足調べていると、ブランドの背景に感動することが多かったんです。いつか靴屋を開きたいと思うようになったのはそれからですね。
蒲原:ちなみに、その方はなぜ靴を…?
中口:僕が可愛かったんでしょう。というのは冗談として、足のサイズが一緒だったこと以外わからなくて(笑) 僕はあの人にこの業界へ導かれたのだと思っていますね。
蒲原:不思議なエピソードですね。それと、中口さんは多くの人気店のオーナーのように、靴屋の家系で育った方だと思っていたので意外でした。とあるブランドに関しては大手に匹敵するほどと伺っていて。そこまでの実績を、この業界に入られて15年で出したというのが驚きです。
中口:ずっと荒波でしたよ。歴史の長い靴屋が多い中、ある意味でカタリは“後発組”ですから。どうやって追いつくかを常に模索していました。
蒲原:どのように今のスタイルを見つけたのですか?
中口:先駆者はみんな長年培ってきたセオリーがあるはずなのですが、僕にはそれがなくて。でも、それが逆に良かったんですね。彼らが思いつかないようなセオリー外のやり方を見つけられて、それが僕らの色になったんです。
中口:そうですね。WEBでの販売に注力するとなった時にいろいろな疑問が湧いてきて。まず、「なんで靴はみんな同じ向きで白背景に置かれた写真ばかりなんだろう」ということです。この世界には白背景の街はないのに不自然だなと。読者が想像しやすいように、背景を決めて、しっかり足を通す、というのが最初に決めたこだわりですね。
蒲原:私は長年靴業界にいたのですが、確かにそういった写真の慣習はありますね。だからこそ、光の使い方や背景への溶け込ませ方には「こんな見せ方ができるのか」と驚きました。
中口:「自分の心が動いた商品を売ること」です。そういう商品には、お客さんの心に訴えかけるような“情緒的な価値”がありますから。「これは売れそうだぞ」とよこしまな気持ちがあると売れないことにも気付きました。
蒲原:接客をする上でのこだわりはありますか?
中口:「履きやすい」という売り文句一つとっても、その人にとっての履きやすさとはなにかを考えながら口に出さないといけないと思います。そのためには靴の履き心地を伝えるだけじゃなくて、お客さんのコーディネートを見て、話を聞いて、その人のことを知る必要がありますよね。
蒲原:WEB以上に人の温もりを大切にされているのですね。
中口:雑貨も“情緒的”だと思うんですよ。例えば、うちの店頭で扱っているピクニックタオルも独特な世界観のデザインなものなので、「なにこれ?」と目を引く力がある。さらに触れてみたら「気持ちいい」と感じたり。その瞬間ってきっと心が動いているんです。
蒲原:最近では野菜も販売されていましたね。
中口:八百屋もやっているスタッフとお試しでコラボしたんです。あの日は靴より野菜のほうが売れました(笑)
中口:間違いないですね。うちのスタッフ全員に伝えていることなのですが、「常にクリエイティブであれ」と。靴屋の枠に囚われないとか、商品のコピーや写真の撮り方を自分達で考えるのもその一環ですね。ものをただ売るだけでなく、新しいことをどんどん発信していく店でないと、これから存在価値はどんどん薄れていくと思っています。
蒲原:1962年のブランド設立からウィンターブーツを手がけ続けていて、90年代にファーをあしらったロングブーツの『JOAN of ARCTIC』をリリースしたんです。それが一部の層に人気を集めてからは、実はずっとファッション的な要素をどう盛り込めるかを試行錯誤していて。ウィンターブーツ以外も扱うレディースラインは、昔からずっとアメリカを中心に展開していたんです。カジュアルなスニーカーラインを打ち出したのは2018年。ギザギザとしたシャークソールが特徴的な『KINETIC』がヒットしたのがきっかけですね。
中口:今ではサンダルも人気ですね。「冬」や「ブーツ」「防水」といったブランドのイメージから離れてそこにたどり着くのは大変だったでしょう。
蒲原:20年くらいかかりました。トレンドに乗ったおしゃれな靴というのは世の中いくらでもありますが、ソレルだからこそできる技術で、ソレルだからこそ表現できる「スタイル」の提案が今ようやく世間に認められてきたと思います。
中口:商品にそれだけの手間と時間がかかっているのはよく分かっているんです。だからこそ、こちらも責任を持ってブランドさんと向き合いたいと思っていますね。
中口:どの靴にもブランドの背景を活かした機能がある点かな。あとはなんといっても、日本のブランドにはない独特の色使い。僕がホームページを見て真っ先に惹かれたところはそこです。
蒲原:ソレルのシューズにはデザイナーやパタンナー、ディベロッパー以外に、カラーリストという職業の人が携わっているんです。デザイナーとは別で、色だけを考える専門の方ですね。他に、マテリアル(素材)を決める方もいますよ。
中口:それだけ多くの人がデザインに携わっているんですね。だから店頭でも、お客さんに見つけていただけるスピードが早いんです。それに履き心地も抜群にいいので、試着されてから買われるまでもスムーズで。リピーターもとても多いですよ。
蒲原:ミッドソール一つとっても、反発性や耐久性をラボでテストしていますからね。それが伝わっているというのは本当に嬉しいですね。
中口:この黒いブーツかな。アウトソールが雪道にも対応しているのがいいですね。
蒲原:『BREX™ BOOT CHELSEA WP』ですね。滑りにくく、泥がソールに詰まりにくいなど、ソレルらしい機能があります。シームシール(目止め加工)があしらわれているので防水性も高いですよ。
中口:それでいてデザインはスタイリッシュですね。
蒲原:アッパーの素材はカウレザーで。街中でも履きやすいかなと思いますね。
中口:『KINETIC™ BREAKTHRU TECH LACE』も2022SSから扱っていますが、店頭でも人気ですね。アッパーが透けているのが面白いんですよ。
蒲原:カタリのECサイトを拝見しましたが、アッパーが光に当たってキラキラと輝いている写真と、「透け感で、あそぶ」というキャッチコピーが素晴らしかったです。軽量で反発性と耐久性にも優れたミッドソールと、自然と足が前に出る独自構造のアウトソールも売りですね。今シーズンは同じキネティックシリーズから『KINETIC™ BREAKTHRU ACADIA WP』というブーツもリリースしました。
中口:情緒的な魅力を伝える、という点はブレずに追求し続けたいですね。ただ、そのやり方は進化させていきたいなと。もしかしたらそれは動画を始めるということかもしれません。ただ僕としては、一瞬を切り取る写真だからこそ通じるものは多いと思っていて。日の光に透けたアウトソールの美しさなんかはそうじゃないかなと。心を動かす見せ方はいろいろ試してみたいです。蒲原さんも、何か今後の目標はありますか?
蒲原:どんな性別であっても、人を前に進ませるようなパワーを持つ靴を提供していきたいですね。特に女性の力はこれからも社会の原動力になっていくと思います。そのためにも、体型やファッションのテイストに関わらず自由に自分らしさを表現できるような一足をリリースしていきたいです。“情緒的な価値”という意味では、もしかしたら私たちも同じような目標なのかもしれません。